夢から覚めた.一つは研究室の面々と採集に行く夢,一つは地元でタガメを採る夢,一つはここには書けない夢の豪華三本立て.満足げに時計を見ると4時半を指していた.
昨日寝たのはたしか4時を過ぎたあたり.まさかあれだけの内容を三十分足らずで駆け抜けたのか?
否.今は"午後"4時であった.いくら先週の睡眠時間の合計が10時間にも満たないとはいえ,夜に騒ぎ倒したとはいえ,ちょっと寝過ぎた.今日の予定は総崩れだ.だがそれでいい.そう思えるだけに昨夜は楽しかった.

魔の三文字.ここには書けない低俗な三文字が,我々を集わせた.その事実が自分を満足させた.しばらく動きのなかったグループLINEに思いつきで放たれた私の言葉はやがてオンライン飲み会の企画に昇華し学会の終わった昨夜9時から開始することに.あまりに唐突過ぎる計画に参加できない面々も少なからずであったが遅れて9時半から2人で始まった飲み会はいつしか8人になっていた.私と最初の一人は高校時代のマブダチ.積もる話が乱雑に積みあがっていたので一つ一つ片づけながら,研究することを志した互いの生き方について熱く語りあった.少なくとも1時間は二人だけで話し続けていたような.よく思い出話にふけるようになったと老いを自覚しながら古き良き過去の自分たちと今を生きる自分たち,結局根っこは変わらずだと.毎回この話はするがいつしても頷くばかりだ.一人加わり二人加わり,くどいので同じ話はしないが彼らの語りに耳を傾けていても同じことを感じる.思えば野郎だけで過ごした6年間と同じかそれ以上の時間をありきたりな環境で過ごしたはずなのに,あの6年間で培われてしまった感性は残念ながら様変わりできずに.どれだけの時間を過ごしたかではなくいつ過ごしたかが人格の形成に関わってくるんだな,とまだほろよい一本で正常な判断能力を保っていた私は笑顔でみんなの会話を眺めていた.とは言うものの端々で奇行や狂言を繰り返していたので周りからはマトモではないと思われていたか.それとももうマトモではなかったか.普段過ごしているときには決してしないであろう行い,言葉,態度.やはりどれだけ成長していても彼らの前では高校生の私なのだ.

心が高校生でも嫌でも今に向き合わされる.一人は彼女ができ,一人は就職が内定し,一人は婚約して結婚間近だ.浪人生ばかりのこの集いではまだ学生の身分を謳歌しているのも少なくないが,レポートに研究に,高校時代にはなかった課題に向き合わなければならない.それは私も同様だ.その日の学会の座長は本当にダメダメだった.かなり落ち込んでこれは引きずるかもな,と思っていた.でも今はそうは思わない.昨日彼らと話したあの時間が私を前向きにさせてくれた.話の内容はどうでもいい(どうでもいいという意味じゃない).あの仲間とあの時間を過ごせたことが私をいつでも前向きにさせてくれる.怪しい動きはたくさんしたが,うれしさのあまりの行動だったと言い訳させてほしい.今思い出しても恥ずかしいが.
他の人がどうかは知らないが,私には帰る場所が必要だ.幸い帰る場所はここにあるし,他にもいくつかある.環境には恵まれているといつも思う.中でもここが一番心地がいい.高校の友人は一生もの,やはりそうらしい.また年末にしようと緩い約束をして,過去から今に時を戻した.