これまで研究が忙しくて(今が一番忙しい)更新はできずTwitterに上げた画像だけで満足していたが,やはりネット上に画像を残してないと画像検索にも引っかからないし,以前にも増してアリに興味を持った人が増えたように思うので,単に飼育して愛でるのが飽きてきた人用にある程度信頼できる写真を残しておかなければといらぬお節介を焼くことにした.愛でたい人はずっと愛でてもらいたいものだが,他に興味が湧いてきた人への情報があまりにも不足しているのでプロと素人の間の中途半端な存在としてやれそうなことを今後も考えていきたい.最近アリへの興味が薄れてきているのでそれが消滅する前に…


さて,ときは戻って2019年3月.私はうきうきしていた.この二文字にどれだけの憧れを抱いていたことか.

奄 美(アマミ)       春香です

九州に住んでいるといっても,北部九州というのは琉球からは程遠い.九州人の私にとっても琉球への遠征はいつになっても大がかりで,胸を躍らせるものだ.これまで本島から与那国島まで,大体の島には行ってきた.そんな中で,沖縄本島でも八重山でもない,その間にある島.春休みになると琉球への遠征計画で持ちきりになるのが昆虫の研究室の慣例だが,その島が語られることはこれまでなかったように思える.
しかし,その名が挙がった.おぼろげだが世間話をしていたとき.ふと行きたいなと言ったかもしれないし,同期がその名を口にしたかもしれない.とにかく奄美に行く話が浮上した.それからはとんとん拍子だった.

ということで奄美に来た.これまで採集記を読んだわけでも,特別見たい虫がいたわけでもないが,昔からなぜか奄美大島,アマミ〇〇という名前の生きものに漠然とした憧れを持っていた私は奄美空港に着いた瞬間言い知れぬ感情の高ぶりを覚えた.

======本編ここから======
行くポイントは大体先輩から聞いていたので即採集へ.もう記憶が曖昧なので写真を依り代にコメントしていくだけに留めたい.
まず一か所目は鬱蒼としたジャングル.さすが南西諸島.でも沖縄まで行かなくてもこんな森に出会えるなんて.南国っぽい植物の葉っぱを見ると,なにやら色々動いている.
maruhananomi2
maruhananomi3
maruhananomi4
マルハナノミ.学部時代はあまり縁のない虫だったが,ここ数年はスウィープでも篩いでも目にするようになった.早春に出るグループがいるらしいのでそれかな.
amaminoshiriage
奄美のシリアゲ.たくさん居たが調査対象でないので写真だけ.
アマミシリアゲというこっちの方の固有種がいるようだがよく知らないので安易にそれだと決めつけてはならんだろう.ネットの画像と比べるとそれっぽいけど.
amami-habati
ハバチ.南西のハバチはよく分からない.つい最近図鑑が出たが,たいがい分からない.黄色い脚が綺麗.
Nylanderia sp2
そういえば黒い小さいアリがよく歩いていた.
Nylanderia sp3
奄美の黒いアメイロといえばリュウキュウ(Nylanderia ryukyuensis)かクロ(Nylanderia nubatama)か…これを見たときはリュウキュウだと思ってそのままにしていおいたが後で見返すとどっちも採っていた.クロアメイロは四国で狙い続けて採れなかった虫の一つ.ようやく現れてくれた.でも現地では気付けなかったのでどれがクロだったかは分からないまま.無念.
気付かなかったので網を振った結果を出していく.
oshirinotogattakumo
お尻のとがったクモ.このグループかっこいいから採っちゃうんだけど結構どれも普通種なんだよね(よく知らんけど).
haetori-amami
haetori-amami2
ハエトリも可愛い.こういう白い色って昆虫だとあまり見ないけどクモだとよく見る気がする.綺麗.
アカヒラタカメノコハムシ
アカヒラタカメノコハムシ.ハムシは網に入れる割に本当にマジで普通種しか採れていないので最近はスルーすることもあるが,これはいい形してる.センスある虫だ.

この場所はスウィープだけで一区切り.冬で採集に飢えていたからかなんでも捕まえてしまった.客観的に見ると貧果だ.

お昼を食べ,二か所目へ.今度は網をしまって篩いを取り出す.さてさて奄美の落葉は私に何を見せてくれるのか.
Hypoponera beppin4
まず入ったのはべっぴんさん.ベッピンニセハリアリ(Hypoponera beppin)の女王だ.本土でも見るがこっちにもいるんだね.
Diapriidae-litter
Diapriidae-litter2
赤くて翅の短いハエヤドリクロバチ(Diapriidae)が落ちた.
Diapriidae-litter3
こういうやつって篩ってるとまあまあ見かけるんだけど篩いに慣れてない人には目新しく見えるのか,珍しいのいた!とよく言われるので載せておく.
Diapriinae
翅が長いのもまま落ちる.
Nylanderia sp
ここでも黒いアメイロは多かった.ここでもリュウキュウとクロが採れたのでどっちかわかんない…

分かれて採集していたはずがあっけなく合流した友人と顔を合わせてなんとなくあまりいい場所じゃなかったので別へ移る.このとき既に時刻は4時になろうとしていたので残り1,2時間で切り上げてしまおうと言って篩い開始.そういや先輩から珍しいマグソコガネが"たくさん"採れるとか聞いてたのでお土産代わりに朽木も割っていくことにした.
Arizukakutiki
朽木からはこのアリヅカがよく出た.多分ほとんど同じやつ.
ArizukaAmami
トゲあってかっこいいぞ.
Kikuizo
樹皮をはがすとキクイゾウが出た.ゾウムシは先輩の顔が浮かぶので採集しておく.

材割りは向いてない.全然虫が採れない.ボケーっとしてると友人が割った材を持ってきた.なんだろうと見てみると黒い宝石が…
Camponotus amamianus-2
Camponotus amamianus
こ,これは…!ツヤミカドオオアリ(Camponotus amamianus)だ!奄美固有のオオアリで和名通りミカドをツヤツヤにした美麗種.なかなかマニア人気も高いすげーかっこいいアリだ.超テンションが上がった.こんなアリを拝ませてくれた友人に感謝.やる気が出たがやっぱ材割りは向いてないと悟ったので土篩いに切り替える.

すると普段なら朽木から出そうなアリが出た.
Cryptopone tengu
ん…これは…天狗?そうだ天狗だ!ハナダカハリアリというアリで学名をCryptopone tenguと言う.
南西諸島に広く分布しているものの今まで見たことがなかった.材から出るとばかり思っていたが篩って採れるとは….涼しい森の中の倒れた針葉樹から出る同属のトゲズネハリアリ(Cryptopone sauteri)をイメージしていたので少し驚いた.
Vollenhovia sp
Vollenhovia sp2
土壌からもウメマツは出る.こういうとこから出やすいのはタテナシだと相場が決まっているが本をいくつか読むと奄美には未記載っぽいのもいるらしい.同定は保留しておく.
Aphaenogaster luteipes-3
Aphaenogaster luteipes
少数ながらアシナガも見つかった.アシナガは島ごとにかなり種分化してるので奄美のは間違いなく初採集だ.これはヒメアシナガアリ(Aphaenogaster minutula)みたい.美しい…しかも腹曲げする.いいね.
※イクビだと誤同定していました大変申し訳ございません

さすが初めて来る島だ.初日だけでこんなに初めてのアリと邂逅できた.
himekokekana
Nazeris
Tamakinokokana2
他甲虫もろもろ.件のマグソコガネは採れなかった.

いい時間になったので初日の採集は終了.お互い夜は採る虫がないので……
けいはん
美味しいご飯をいただいて,コミュ強な友人のおかげで地元の人たちとも楽しく会話できて離島遠征の旅を満喫できた.


初日は情報量が多い.明日から行くべき場所を考えながら,コンビニで朝ごはんを購入して適当な場所で眠りについた.