先日甲子園へ母校の応援に行った日、帰りのバスまで時間があったので少し気になる場所へ行ってきた。
阪神電車からポートライナーに乗り換え、適当なところで降りる。目標は、人工島で大量に居ると聞いていた。三月の下旬、まだようやく虫たちが活動を始めるくらいの季節。しかも肌寒い曇りの午後だったが、そいつらなら間違いなくいるだろう。

しばらく歩くと、早速見つけた。といっても目的の虫ではなく、日本在来のもの。トビイロシワアリ(Tetramorium tsushimae)やムネボソアリ(Temnothorax congruus)が、こんな寒さにも関わらず一生懸命歩いていた。
だいぶ歩いた。途中おじさんに道を訊かれてビックリしたが、訊かれたのがさきほど降りた駅だったので助かった。にしても、全然いないじゃないか!うーん、まだ寒いから出てないのかな、場所が悪いのかな…。

少し雨が降り出してヤな感じになってきたとき、道路脇のアスファルトに行列が。
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これか…?この色、間違いない。こいつか…。
初対面はこんな反応だった。もっと"おおおおおぉぉぉぉおお!"みたいな感じになると思っていたが、意外とあっさり。
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アルゼンチンアリ(Linepithema humile)。言わずと知れた外来種、アリの中では虫屋、一般人問わず知名度が高い。もはや説明不要の侵略的外来種の本種は、人や物資の移動にくっついて世界に広がり、日本では1993年に広島で初めて見つかって以降日本各地で確認されている。日本では特定外来生物に指定され、世界的には世界の侵略的外来種ワースト100に選ばれるなどブラックリスト入りを果たしている。人工物に入り込む、農作物を弱らせる他、なんといっても同じ場所にすむ他種のアリを駆逐することが問題となっている。この辺はネットや本の方がはるかに詳しいのでそちらを参照ください。
参考文献
環境省自然環境局野生生物課外来生物対策室,2013.アルゼンチンアリ防除の手引き.78pp.

で、アリ屋としてこのアリに出会って思ったことは、イメージとだいぶ違ったな、ということ。アルチンを語るときに実際見たこともないのに知った風に語っていたことを恥じた。
本やネットで見て感じていたこれまでのイメージは、"アルゼンチンアリは小さく、素早く、ルリアリやアミメアリに似ている"みたいなものだった。
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左がアルチン、右がトビシワ。
まず大きさ。2mmくらい、小さい、みたいなイメージだったので、同じくらいのニセハリ(Hypoponera sauteri)とかウロコ(Strumigenys lewisi)程度の大きさをイメージしていたが、全然違った。わりとデカい。これは、コヌカ(Tapinoma saohime)もそうだがそのうに餌を貯めるとだいぶ腹部が伸長して図鑑の表記より大きく見える。トビシワと並べたが、同じくらいだ。アリ屋的には、まあまあ普通サイズだ。
次に、動き。これは早春で気温が低かったことが関係しそうだが、けっこうのろまだった。イメージとしてはアワテコ(T. melanocephalum)くらいワチャワチャしてると思っていたが、そんなことなかった。
最後に、似ている種。アミメはともかく、ルリアリは亜科も同じだし遠目からだと間違うかも…とか不安に思っていたが、杞憂だった。全然似てないよ!普通の人はともかく、アリ屋なら間違うことはまずなさそう。出会うまではサクラアリも少し似てるかも…とか思っていたが、色は少し似ていても、大きさも動きも全然違う。今後コイツが目に入ったら一発でアルチンと分かるはずだ。

本種はまだ四国では徳島で食い止められているが、いつ他県に入ってくるか分からない。入られたらどうするかよりも入られないためにどうするかを考え、行動に起こしていかなければならない。

※上の意見はアリ屋としてのものです。虫屋でもアリなんか興味ないしよく分からんなぁ…という方や、虫のこと全然分かんないという一般の方は安易に同定しないようにしてください。誤同定はかえって混乱を招きます。しかし、心配に思ったらその地域の自治体や関係機関に連絡することをおすすめします。参考文献の防除の手引きは同定の方法も載っているので、そちらもご参照ください。