去年の9月のことになりますが,冬のネタのない時期ですので対馬に遠征した話でも.

昆虫学会を終えた私は,先輩2人と博多港で待ち合わせ.奇しくも発表を行った3人での旅となった.先輩方,発表お疲れさまでした.
今回の目的地は,長崎の北に浮かぶ島,対馬.九州で育ちながら一度も行ったことがなく,初上陸となった.
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深夜0:00に港を出て,朝までしばし眠って気が付けば対馬に着いていた.意外と近い.
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レンタカーを借りに行くまでの道をだらだら歩く.

車を借りて,まずは少し小高い場所にある公園へ.そこでは対馬に住む大きくて綺麗なすんばらしい虫がいて,それを捕まえるためにコップを埋め埋め.恥ずかしながらピットフォールトラップを仕掛けるのはこれが初めて.どんな場所がいいのかどれだけかければいいのか餌はどうするのか…何も分からない状態で,なんとコップに入れる蛹粉を持たずに参戦したという.なんという無知,無能.結局先輩から少し頂いて50個かけたところでギブアップ.先輩たちは100以上かけていました.なーにコップを埋めるくらい…なんて思っていたがこんなに疲れる作業だったとは….
その後は少し公園で採集したが,こんな序盤で目的の一つを採ってしまった.
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これは…ツシマハリアリ(Ectomomyrmex japonica)!それも女王!日本では対馬にだけ生息する7,8mmほどの大型のハリアリで,ハリアリ亜科(Ponerinae)でもいわゆる"ハリアリ顔"の中では日本最大種.南西諸島には似たミナミフトハリアリ(E. sauteri)がいるが、ちょっと違うらしい.ともあれ,対馬感満載のアリ,ゲットだぜ!
…しかし,女王が歩いているということは…
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あ…いっぱいいる…
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これは……ハチ…?いいえ,これもツシマハリアリ,こいつぁオスです.たまたま結婚飛行の時期だったようで,多くの羽アリを見つけることができた.勿論ワーカーも捕まえ,最初から満足.
しばらくツシマハリアリの採集に没頭していると,手元に飛ぶ小さな虫が.
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おお,これはトフシアリ(Solenopsis japnica)の女王.秋に飛ぶことが知られているアリでワーカーは1.5 mmほどですが女王はけっこう大きいみたい.トフシも飛んでいるのか…と,空を見ると,黒くて小さな点がブンブン飛んでいるというか風に流されているというか.どうやら飛行日和だったようだ.シメシメ…
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一度網を振っただけでこれ.この粒々はサクラアリ(Paraparatrechina sakurae)のオスで,これも秋に飛ぶアリ.この他にもカドフシアリ(Myrmecina nipponica)も見つけ,羽アリを大量にゲット.羽アリというのは一年でも結婚飛行の時期にしかまとまって採れないので,普段行くことのない遠征先で見つけられたことは運が良かった.
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学会でヒメバチの話をいっぱい聞いたおかげで,やっと?目覚めた.キオビコシブトヒメバチ(Metopius browni).メンガタヒメバチの仲間はがっしりしていて好きなヒメバチだ.ヒメバチも沢山採っていこう,初日はこう思っていたが…

さて,最初のポイントでちょこっと楽しんだ我々は,島の南端の岬を目指すことに.
車に揺られて到着した岬は,見晴らしがよく有剣類がとても多そうな環境に見えた.
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まず出迎えてくれたのはウラナミジャノメ(Ypthima motschulskyi niphonica).対馬亜種だ.全国にいーっぱいいるヒメウラナミジャノメ(Ypthima argus)にそっくりだが,こちらは数が少なく本州のものは絶滅危惧種に指定されている.勿論私はファーストコンタクト.亜種とはいえウラナミジャノメ,いくらチョウに興味がないとはいえ,有名だけれど見たことのなかった昆虫を初めて見たときは,感動する.
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キマダラセセリ(Potanthus flavum).この模様,色合い,好きだ.
この他に多数のハキリバチ,コハナバチ,ベッコウバチ,トックリバチ,ドロバチ…などなどいっぱい採れたが,採ることに必死で撮ることを忘れていた.本当に沢山の有剣類に囲まれ,ああ,もうずっとここでいいや…と思っていた.先輩が採ったルリモンハナバチを採らなきゃ…と完全に頭は有剣一色.ヒメバチ採る意気込みはどこ行った.

ときは流れ夜.コンビニ弁を食らい温泉で汗を流したあとは灯火巡り.いい感じの天気で成果が期待できた.
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シリアゲアリ(Crematogaster sp.)女王の塊.こういう光景はキイロシリアゲ(C. osakensis)でしか見たことがなかったが,こいつらもやるんだなあ.
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小さなケアリ(Lasius sp.)の女王.他のラシウスが飛ばない秋であり,体長が5 mmくらい?だったことからCautolasiusの女王だと思う.結構よさげ.
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ミイデラゴミムシ(Pheropsophus jessoensis).ケラの卵を食うへっぴり虫.捕まえるときブッ!と大きな屁をかましていた.実はとてもとても好きな虫で,いっぱい見られたので幸せだった.
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スズムシ(Homoeogryllus japonicus)のメス.リーンリーンと秋の夜長にふさわしいスズムシも,野生ではなかなか見ることができない(当社比).野生のものを見たのはこれが初めてだった.普段直翅は採らないが,嬉しくて捕まえた.
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こんなのにも出会った.ツシママムシ(Gloydius tsushimaensis).対馬に行く際に気を付けておけよ,と言われていたマムシだったが,こんな開けた場所では怖さも半減.いい出会い方をした.太短くて可愛い.
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ヒラアシクサアリ(Lasius spathepus).クサアリ亜属(Dendrolasius)は気になっていたので喜んで採集.一番普通種だけどね。
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クサアリの近くを走る黄色い粒.
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これはコヌカアリ(Tapinoma saohime)!本土にもいるが今まで捕まえたことはなかった.朽木を割れば出てくると聞いていたが夜こんなに活発に活動していたとは.なんとなく感じていたが黄色いアリは夜行性なのかな.
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そしてカニ!


そんなこんなで楽しい灯火を終え,初日は終わった.
次の日,コップにいい虫が入っていることを願いながら,眠りに就いた…