眼下に広がる海、強い風に叩かれ刃こぼれしたような岩。磯の香りが体を通り抜けるそんな場所に、たくましく生きるアリがいる。
そのアリは日本の腹側にのみ産する。光沢を放ち岩場を縦横無尽に走る者……イソアシナガアリ。
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岩場に潜む狩人。
常に腹を曲げ、近くを通る者あらば捕らえ糧とする。
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また一人、こやつらの胃袋におさまる者が…。今まさに、生きてきた記憶が走馬灯のように駆け巡っていることだろう…。
こやつらに"遠慮"の言葉はない。命乞いする者あらば、こう返す。
"そこにいたお前が悪いのだ"





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イソアシナガアリ(Aphaenogaster osimensis)。私の好きなアリの一つで、その姿を見たかったアリの一つだ。
太平洋側にマーカーを引いたような分布、海に近い岩場に営巣する習性、ツヤツヤとした体、そしてなにより"腹曲げ行動"をすること、こういった多くの魅力が、私を惹きつける。
特に腹曲げ行動は、他のアシナガアリでも見られる行動ではあるのだが、このアリを見たとき衝撃を受けた。
他種の腹曲げ行動が獲物を探し見つけ出したときや巣を暴かれ警戒しているときである(今まで見た種は)のに対し、この種はほぼ常に"腹曲げ"しており、真上から見ると腹部の切れたアリが歩いているように見える。
この光景を目の当りにした瞬間、感動した。アリを捕まえて感動したことは嬉しいことに最近よくあるのだが、見つけて感動したのは本当に久しぶりだった。捕まえた標本の一部は腹曲げをしたポーズで整形し四角台紙に貼った。出会って、更に好きになった。
彼女たちは今日も妹達のために走り回り、ダンゴムシやヨコエビを狩る。腹を曲げながら。